パンやま日記

パン山さんとの戦いを綴る日記

パン山 vs 神々の黄昏

—The third wave…その波に乗りし神々は,コーヒー豆の産地を,国単位ではなく農園単位でとらえて買い付けをする.彼らの基本は<シングル・オリジン>であり,豆本来の味を引き出す焙煎を行う.

「シングル・オリジンか…」
パン山は揺れていた.果たして自分は研究者に向いているのだろうか.たった一握りのトップ研究者が全てを支配する世界.その世界における絶壁とも呼べるキャリアパスを登っていく人生.今や彼の目の前に広がるのはただひたすらの闇であり,そこに一縷の光は見えなかった.

パン山が一通りの原稿修正を終え,とぼとぼと散歩していたときのことである.眩い閃光が辺りを埋め尽くし,パタレコ神が彼の目の前に君臨した.
パタ「その原稿は何だ」
パン「えっこれは23日締のカメラレディ原稿で…」
パタ「そういうことを聞いているのではない,その図表は何だと訊いているのだ」
パン「それは…」
パタ「いいかパン山よ.汝が自身を納得させられない結果を発表して,果たして誰が納得しようか」
パン「だって!出ないんだ!何度やっても何度やっても!リーズナブルな結果が上がってこないんだよ!!」
—パン山は限界だった.


パタ「パン山よ.失敗無くして何が研究だろうか」
パン「分かってる.でも…」
パタ「そうだな,そう.そのEMアルゴリズムのコード.よく見てみよ」
パン「え…あ!このパラメタ更新されてない!」
パタ「汝は毎日自身の知識を更新しておるというのに,汝の生み出せしコードは更新を怠っておったようだな」
パン「あれ,ということは…これをもう一度回して…出た.リーズナブルな結果…」

パタ「いいかパン山よ.研究とはEMだ.日々の更新が正しい結果を導く.ただし,初期値によっては思わぬ局所解に陥ることもある.汝はこれまで指導教官によって適切な初期値を与えられてきた.しかし今の汝は違う.自ら,適切な初期値を導かなければならない.また,研究に大域収束性は存在しない.もう一度汝に問おう.失敗無くして何が研究だろうか」
パン「パタレコ神…」
パタ「その一方で,汝は頼れる.指導教官に.友人に.汝が愛せし者に.それを忘れるでないぞ」
パン「あっパタレコ神!待ってください!パタレコ神ー!」



パタ「これで良かったのか」
バリスタ「ああ,ご苦労だったな」
パタ「しかし良かったのか.汝の世界に飛び込もうとする若者をこうして奪いさってしまって」
バリ「何をバカげたことを.ヤツにカフェ屋は務まンねーよ.それに分かってンだろ.あいつは,研究者だ」
パタ「…そこまで分かって私をあやつに差し向けたのならば,もはや何も言うまい」
バリ「さあ,せっかくだ.コーヒーでも淹れてやるよ.俺様とっておきの,シングル・オリジンだ!」